インプラントで失敗が予想される10の事例
歯をなくして、歯科医院に行くと、インプラントをすすめられることがあります。インプラントは、良いとは聞くけど治療費が高い。しかも、歯科医院によって技術に差があるとも言われているらしい。インプラントに本当にリスクはないのか?などインプラント治療について心配な方向けに、この記事では、インプラントで起こる可能性のある失敗事例について考えてみます。
目次
インプラントとは、どんな治療法なのか?
インプラントは、失ってしまった歯の部分に人工の歯根を埋め込む術式であり、外科手術を行うことになります。
人工の歯根の基本的構造は、ネジと同じで、これをアゴの骨に埋め込みます。その上から人工の歯を取り付けるのがインプラント治療です。インプラントはアゴの骨に直接埋め込むため、ご自身の歯と極めて近い感覚でお使いいただくことができます。
治療期間は、個人差がありますが、半年から1年となります。しかし、お口の状態によっては、歯肉の移植などを行う必要があり、さらに長くなる場合があります。
また、病気をお持ちの場合や、服用されている薬、生活習慣の状態によっては手術自体受けられないということもあります。インプラントの費用は歯科医院によって異なりますが、1歯につき20万~50万円程が相場だと言われています。
※費用は歯科医院によって違いますので、治療を検討している歯科医院にお問い合わせください。
インプラントはいつから行われている?
インプラント治療の歴史を遡ると、記録では紀元前になりますが、現在に通じるインプラントは1900年代初めに登場しました。しかし、当時は貴金属を材料としたため生体適合性に問題がありました。その後、コバルトクロム合金などを材料としたものが使用されましたが、これらの金属も生体適合性に課題があったため普及には至りませんでした。
1950年代にスウェーデンのブローネマルクらがチタンと骨が結合することを見出し、1965年にチタン製スクリュータイプのインプラントを用いた治療が記録として残っています。その後、材料と治療技術が進化し、世界中で承認、使用されるようになりました。現在では、多くのメーカーから発売され、日本では1983年に治療が開始されています。
治療の安全性を向上させるために、公益社団法人 日本口腔インプラント学会が口腔インプラント学に関わる広い学識と高度な専門的技能を有する歯科医師の養成を図り、専門医、専修医、インプラント専門衛生士、インプラント専門歯科技工士の資格を設けています。
専門医
正会員歴5年以上で、インプラントの知識と技術を有し、認定資格条件を満たしたうえで専門医試験に合格した正会員
専修医
正会員歴2年以上で、インプラントの知識と技術を有し、認定資格条件を満たしたうえで申請を行ない認定された正会員
インプラント専門歯科衛生士
正会員歴2年以上で、インプラント治療の介助又はメインテナンスに携わり、認定資格条件を満たしたうえでインプラント専門歯科衛生士試験に合格した正会員
インプラント専門歯科技工士
正会員歴2年以上で、インプラント上部構造の技工に携わり、認定資格条件を満たしたうえでインプラント専門歯科技工士試験に合格した正会員
インプラントのメリットは?
インプラント治療には、元の健康な時の歯に近づけられるというメリットがあります。入れ歯のように噛む力が健康な状態よりも弱くなったり、ブリッジを入れるために両隣の歯を削る必要がありません。
また、適切なメンテナンスを行うことで、半永久的にきれいな状態で使い続けることができます。なお、インプラント治療では、天然歯のようにアゴの骨に固定するため、違和感なく噛むことができます。
インプラントの3つのデメリットは?
一方で、インプラントのデメリットと考えられるのが、外科手術をする必要があるという点です。ここでは3つのデメリットを紹介します。
1:100%成功を保証できない
外科手術を伴いますので、成功率は100%ではありません。また、手術により今までは何の問題もなかった神経や血管などにも手を加えることになりますので、何かしらの障害が発生する可能性があることは否定できません。
2:手術を受けられない人もいる
インプラントは誰でも手術が受けられるわけではありません。インプラントを埋め込んだ部分は骨の成長が妨げられる可能性があるため、成長過程にある方はインプラント治療ができません。
また、免疫力や抵抗力が低下しやすく歯周病の発生リスクの高い糖尿病の方、口腔内の衛生状態の悪い方や、あごの骨がインプラントを埋めるのに足りない方、喫煙者の方は、 事前に生活習慣の改善をしたり、医科の診療を受け、症状をコントロールしておく必要があります。
3:メンテナンスが必要
人工物であるインプラントが虫歯になることありませんが、日ごろから丁寧なメンテナンスが必要となります。人工の歯根を埋め込む口の中の衛生状態が悪いと、そこから歯周病菌が繁殖し「インプラント周囲炎」という病気にかかる可能性があります。
インプラントの失敗事例
インプラントは歯科医師の技術による影響が大きく、また失敗する事例もあります。ここから具体的に想定できるインプラントの失敗事例について考えます。
1:骨とインプラントがくっつかない
インプラントの機能性の高さは、インプラントとアゴの骨が結合することで生まれます。逆にインプラントがしっかり結合しなければ、インプラントのグラつき・脱落の原因になってしまいます。手術の技術、その方の骨の状態、手術後の感染等で骨とインプラントがうまく結合しないことがあります。
2:インプラントが壊れる
噛み合わせが悪いと、インプラントに負担をかけて人工歯の破損などのトラブルを招きます。噛み合わせの悪さによって、インプラントに負担をかけ続けることで、インプラントが壊れることがあります。
3:インプラントが外れる
インプラントと人工歯(被せ物)を連結させるアバットメントが緩んでいると、インプラントが外れる可能性があります。
4:インプラントがぐらつく
インプラントをアゴの骨に埋める角度・位置・深さが適切でなければインプラントと骨がうまく結合しません。誤ってインプラントが骨を貫通してしまった場合をはじめ、その他のトラブルで脱落やグラつきなどが生じます。
5:痛みが取れない
インプラント治療の後は、痛みや腫れ、しびれなどの症状が起こることがあります。インプラントを埋める部分に、骨をつくる手術を行っている場合や複数本のインプラントを埋める場合には、腫れや痛みが生じやすいと言えます。一般的には、痛み止めを飲めば治まる程度の症状です。
しかし、手術によっては、我慢できないほどの激しい痛みを発症する場合があります。痛みの原因としては、埋め込んだインプラントが、神経を圧迫したり、損傷したりして、痛みやしびれなどの症状を引き起こしていると考えられます。
また、インプラントの細菌感染(インプラント周囲炎)によって、痛みが生じる場合もあります。細菌に感染する原因には、器具や手術環境の衛生管理の不十分さや、糖尿病の人の血糖値コントロールの不足などが考えられます。
6:痺れが取れない
下のアゴにインプラントを入れる際、アゴの骨のなかにある「神経」に影響しないようにインプラントを入れることが重要です。
下のアゴの骨のなかには「神経」を含めて動脈および静脈も通っており、唇などの口のまわりの「感覚」を司っています。この「神経」が圧迫されたり傷ついたりすると、唇の一部に痺れが出たり感覚が麻痺することがあります。手術の際の器具で圧迫されたことによる影響や、出血により神経が圧迫されたことによる影響などによって症状が出るリスクがあります。
7:骨が減ったと感じる
上と下のアゴの骨で,それぞれの歯が収まっている部分の骨を歯槽骨と言います。歯がなくなると、歯槽骨も次第に吸収され、消失します。この現象は、インプラント周囲のアゴの骨にも例外なく起こります。
歯槽骨が吸収された状態でインプラント手術を行うと、アゴの骨が少なくなったと感じることがあります。また、骨の吸収の度合いによっては同じ箇所にインプラントを施すのが不可能になることもあります。
8:神経の損傷
下のアゴのインプラント治療ミスのひとつに、下歯槽神経の損傷があります。神経損傷の程度は様々で、薬による治療ですむ場合もあれば、インプラントを除去しなければならないこともあります。
症状がひどい場合は、切れた神経を縫い合わせたり、損傷した神経を取り除き神経を移植しなければなりません。手術は緊急性を要すことがあり、何ヶ月何年もたってしまえば、回復が見込めないことも少なくありません。
9:感染
インプラントの手術においては、手術に使う器具が衛生的でないために、細菌感染を引き起こしてしまうケースがあります。細菌感染を起こすと、腫れがなかなか治まらなかったり、膿みが出たりします。
インプラント治療を受ける際は、手術に使用する器具の管理体制が整っており、滅菌レベルの高い歯科医院を選ぶことが重要です。
10:インプラント周囲炎
天然歯で起こりうる「歯周病」の症状と同様にインプラントの周囲でも炎症が起こることがあります。プラーク(細菌)がインプラントの周りに溜まるとそこから炎症を引き起こし、炎症がアゴの骨まで達すると骨が衰退し、インプラントを支えられなくなります。
増加するインプラントのトラブル件数
インプラントの症例数は増えていますが、同時にトラブルの件数も増えています。
以下に、インプラントに関する取材の記事を紹介します。
NHKのクローズアップ現代でも「歯科インプラント トラブル急増の理由」という特集が放送されています。
放送内容はこちらから
国民生活センターによると、インプラントに関連する相談が2006年以降の5年間で2,086件寄せられています。相談内容は、「安全・衛生」「品質・機能・役務品質」に関連する相談が51.0%と約半数を占めており、相談件数は増加傾向にあります(図2)。
参考:http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20111222_2.pdf
インプラントで失敗しないために注意したいこと
ここからはインプラントで失敗しないための注意点について考えてみます。インプラントで失敗しないための注意点は3つあります。
1:歯科医院を選ぶ
インプラント治療を実施するには解剖学、組織学、病理学、生化学、微生物学、免疫学、歯科理 工学(生体材料学)等に関する基礎歯科医学の知識、また口腔外科学,歯科補綴学,歯周病学,矯正歯科学,歯科放射線学,歯科麻酔学等の臨床歯科医学の知識と治療技術,さらに関連する全身医学の知識(臨床検査データの読み方を含む)等の広範な知識と治療技術が必要となります。
また、インプラントはチームで治療をすることが多いため、各専門分野のメンバーが症例検討を行い、治療のゴールを共有することが大切になります。歯科医だけでなく、歯科衛生士、歯科技工士もチームのメンバーであるため、役割分担がしっかりとなされている歯科医院を選ぶとよいでしょう。
2:専門医と症例数を確認する
公益社団法人 日本口腔インプラント学会による専門医、専修医、インプラント専門衛生士、インプラント専門歯科技工士の資格を取得している歯科医院の中でインプラントの症例数が多く、ホームページに多くの情報が書かれている歯科医院は専門性が高いと考えることができます。
3:他の治療法を検討する
最近では、噛み合わせを重視した入れ歯の品質も目まぐるしく向上しています。インプラント以外の治療法を検討することもよいかもしれません。特に、入れ歯はお試し入れ歯と本入れ歯の2段階で作製をする歯科医院もあります。まずは、お試し入れ歯を作ってみて、入れ歯のつけ心地を体験する等、お口の状態に合わせた入れ歯作りをすることもできます。
まとめ
インプラントは、メリットの多い治療法だと言えます。しかし、外科手術を伴う限り、100%の成功は保証できませんし、万能ではありません。また、この記事でお話ししたように、国民生活センターへの相談件数も増加しています。
インプラントの知識を身につけ、信頼ができる歯科医師に相談してください。また、インプラント以外の治療技術も向上しているので、他の選択肢を検討することも合わせておすすめします。
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